入門としての電源装置の自作

電子工作をするにあたり,電源装置は必須と言えます. 回路の動作チェックを行う際に電源装置があるか否かで作業効率がまるで違います. 電源に普通の乾電池を使うと,自在に電圧を変えられない上,電池残量に気を配る必要があります. 電源装置であれば,商用電源で動作するので,常に安定した電圧を出力してくれます.

重要な役割を果たす電源装置は,機能と性能を高望みしなければ割と簡単に自作することができます.

電子工作と機械工作の入門として電源装置を自作してみてはいかがでしょうか.

仕様

出力電圧1.25V〜14V
出力電流1A
インターフェース液晶式電圧計/照光式シーソースイッチ(電源スイッチ)
予算3000円ぐらい

なるべく簡単に作れることを重視しました.こんなものでもマイコンを初めとしたディジタル回路や,簡単なアナログ回路であれば必要十分な性能です.

うるさいことを言うと,出力電圧の安定性だとか,出力のノイズがどれだけかとか,出力電圧を外部から制御できるのか等々色々要求はあるのですが, そういった高機能な電源装置はまた別の機会に.

回路図

回路図はこちら.

部品表はこちら.

この回路の肝は出力電圧可変レギュレータICのNJM317です. このICは可変抵抗器一個で出力電圧を設定することができる便利なICです. 出力電圧を決める抵抗を可変抵抗にすることで,出力電圧を自在に可変出来るようにします. セカンドソースが沢山あるので,入手も簡単です.

あとは,電圧計の動作のために必要な5Vを生成する回路が付加されています.

電圧計には秋月で安価に購入可能なPM-128Eというものを使っています. 秋月での商品紹介ページに"※測定グランドと電源のグランドは共通にできません。写真の説明をご覧ください" と書いてありますが,これは正負の電圧を測定する場合に限った話です.+側だけ測定する場合は電源のグランドを共通にすることができます.

回路の作成

回路はユニバーサル基板を使って作ります.基板の材質はガラスエポキシ択一です. 紙エポキシやベークの基板も市販されていますが,機械的な性質はガラエポに遠く及びません. 値段ではガラエポが一番高価ですが,それだけのメリットがあります.

部品の配置は,配線が簡単に出来ることをまず第一に考えて決めます. まあ,回路図と同じように部品を配置すると,だいたいは上手くいきます.

慣れない内は,実際に部品を半田付けする前に,部品の配置を紙上やCADで検討してから半田付けすると失敗しなくてよいかと思います. ちなみに今回は,ぶっつけで半田付けしました.

電解コンデンサと5Vレギュレータの足が短いですが,これはジャンク基板から採った部品だからです.


部品の実装が完了した基板になります.可変レギュレータICが基板横に飛び出していますがこれは放熱のためです. ICのタブを筐体にネジ止めすることで筐体に熱を逃がします.要するに,筐体を放熱器がわりに使うわけです.

ケーブルを接続する部分には錫メッキ線を曲げて作った端子を用いています.一般にはコネクタを使うのですが,今回は簡単のためにこのような構成にしました.

部品実装時の注意を数点. 部品は基板から浮かないように(つまり,部品と基板が密着するように)取り付けましょう.ぷらぷらしているとみっともないです. また,部品を半田付けする際,部品が基板から抜け落ちないように,部品の足を直角に曲げることが推奨されていますが,これはあまりおすすめできません. 何故かと言うと,足を直角に曲げて固定した部品を外すのは難しいからです.要するに,ミスをした時の修正が困難なのです.


スズメッキ線で作った端子には,こんな風にケーブルを半田付けすることができます. また,端子のところには何の端子であるか見分けるためのマークを書いて置きましょう.


基板裏側はこのようになっています.

金属光沢がある対象はうまく撮影できないですねえ.


回路ができたら,早速,電源を投入して試験したいものですが,その前に配線のチェックと,電源ラインが短絡していないかを確認しましょう. 配線が間違っていると,割と簡単に部品が昇天します.せっかく作ったものを壊すことが無いよう,注意深くチェックしましょう.

至る所がテープで固定されていますが,これはショート防止のためです. テスター棒同士が接触してショートし部品が壊れるという危険を未然に防ぐには,そもそもテスター棒が動かないように固定するのが早道です.

こういった仮止めとして使うテープにはマスキングテープや養生テープが好適です.セロハンテープやビニールテープを使うと,剥がす際に粘着剤が残ったりして困るのですが, 先に挙げたテープであれば綺麗に剥がれるので,このような用途には最適です.


首尾よく基板が動作したので,電圧計を接続します.接続の前に,電圧計のレンジ設定,電源の設定,小数点の設定を半田ジャンパにより行います. ジャンパする箇所を赤丸で括っておいたので参考にして下さい.
この設定だと,電源がコモングラウンド+5V,測定レンジがDC:MAX20V,小数点が第二位につくようになります.


テスターと電圧計で同じ箇所の電圧を測ったところ,どの電圧でも30mVから40mVのオフセットが両者の間にあることが分かりました. 信頼できる確度を持った電圧計を持っていないので,この表示値がどれだけ正しいのかを判断することができないのですが, まあ,仕様で示した用途であれば,十分な精度であると言えるでしょう.

回路はこれで完成です.続いてケースの加工をします.


ケースの加工

今回使用するケースはテイシンのTE-316というものです.上側のカバーが鉄製であるということと,価格が安いというのが特徴です.
下側は厚さ0.8mmアルミなので加工が簡単です.ただ,薄すぎでペラペラな感は否めません.


部品のレイアウトを検討します.操作するスイッチとつまみは右側に配置するのがよいでしょう. というのも,つまみを右手で操作する際に,電圧計の表示が隠れないからです.

レイアウトを考えているときが一番楽しかったりします.


部品のレイアウトにあたりをつけたら,CADで配置を設計します.今回はJW_CADという本来,建築用の2DCADを使いました. 部品ごとにレイヤを分けて作図するのがポイントです.

なぜ,わざわざCADを使って設計するのかというと,ケガキの手間を無くすためです.これについては後述.


加工線だけ残して原寸でプリントアウトします.


プリンタによっては,印刷精度が低い場合があります.今回使ったプリンタは,縦方向では十分な精度だったのですが, 横方向は128.0mmのところが127.5mmに縮んでしまっていました.縮みの補正は,CAD上でスケールを微妙にずらすことで行うことができます.

プリントアウトの精度は人の手で行ったケガキより(多くの場合)高いです.この技法はケースの加工に限らず,様々な加工に対するケガキの手段として使えます. ぜひマスターしましょう.


プリントアウトした紙を切り抜き,スティック糊で貼りつけます.糊の塗布は紙ではなく,ケース側に行います. なぜかというと,紙に糊を塗布すると,紙が糊の水分を吸ってしわしわになってしまい寸法精度が落ちるからです.


貼った紙を元に穴あけ箇所にポンチを打ちます.板が薄いので,強くポンチを打つと板全体が凹んでしまうので注意しましょう.
同時に,空ける穴のサイズを書き加えておきましょう.


まず,D3.2のドリルで下穴を空けます.


下穴をガイドにして径を広げます.板がねばいのドリルが食い込みやすいです.慎重に作業しましょう.


角穴はドリルで直接空けられないので一工夫必要です. 切り抜く縁に沿ってドリルで穴を空けて,穴同士をニッパで繋いで窓を空けます.
写真ではD1.5のドリルで穴をあけたのですが,これは失敗でした. というのも,穴が小さすぎてニッパの刃先が十分な深さまで入らないために切り抜きに難渋したからです. D3ぐらいのドリルで穿孔するのが良いと思います.

大事なことを一点.窓を空ける部分の紙を事前に剥がしておきましょう. 穿孔した際に紙がドリルに巻き込まれて,エッジが不明瞭になる事態を避けるためです.


難渋の結果,開いた各穴.エッジが汚いのでヤスリで仕上げます.

使ったことが無いのですが,ハンドニブラがあればもっと簡単に穴が空けられるそうです.


紙を切り抜いた線に沿うようにヤスリで仕上げます.対象がt0.8の純アルミなので簡単に削れます.削りすぎないように注意しましょう.


加工をすると,写真のように大量のバリが出ます.棒ヤスリ,紙ヤスリを駆使してどうにかして取り除きましょう. バリとりが終わればとりあえず前面の加工は完了です.


写真は背面に取り付けるDCジャックの穴を空けているところです.DCジャックの外径がΦ14.1なのでΦ14.2程度の穴を空ける必要があるのですが, ドリルではΦ13までしか空けられません.ですので,リーマを使って穴を拡大します.


ケース底面に基板固定用の穴を空けます. 写真ではレギュレータのタブを固定するための穴が空いていませんが,必ず空けて下さい.

タブの穴位置は現物合わせで良いでしょう.


加工完了です.所要時間は1時間ほどです.


組み立て

基板やバナナプラグ,スイッチ等を取り付けて配線をしたところです.

レギュレータはケースと直接固定するのではなく,放熱シートを介して固定します.


電圧計を取り付け,可変抵抗にツマミをつければ組み立ては完了です.


本体ができたら,負荷と接続するためのケーブルを作ります.

+と-で長さが違いますがこれは意図的なものです.同じ長さだとみの虫クリップ同士が接触してショートしやすくなるので,それを避けるためです.


祝 完成

作成したケーブルと本体を合わせて稼働させてみました.なかなかかっこいいですね.

電圧計を搭載したので所望の出力電圧への調整がスムーズに行えます.


評価

製作した電源の電源投入時の過渡応答を観測してみました.使用機材はINSTEKのGDS-2202という型式のストレージオシロです.

出力電圧5V 無負荷

出力電圧10V 無負荷

出力電圧5V 100Ω抵抗負荷

出力電圧10V 100Ω抵抗負荷

出力電圧5V 10Ω抵抗負荷

出力電圧10V 10Ω抵抗負荷

リンキング,オーバーシュート共に見られず,十分に安定であると言えます.ただ,立ち上がりが若干遅いような感じもします.負荷が重いと400msecもかかっています. まあ,製作費3000円なのでこんなもんでしょう.

まとめ

自分で作った道具には愛着が湧くものです.設計の際にあれこれ考えるのも楽しいものです.是非是非,手を動かして工作の楽しさに触れてくださいな.


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